新しくいくえみ綾を知った人に読んでほしい作品

あなたのことはそれほど」がドラマ化したのにも驚いたしそれなりにヒットしたのにはもっと驚いた。役者勢が相当頑張ったのだろうと推察する(見ていない)。いくえみ作品はとにかく空気感が巧みなので、映像化は難しい気がしていたのだけれど、その辺りはどうだったのだろうか。

さて、「あなたのことはそれほど」でいくえみ綾を知った人に読んでほしいいくえみ作品を紹介したい。実はいくえみ綾は思春期〜青年期を描かせたら右に出るものはいないと思っているのでその辺りを。しかし年齢考えると未だに高校生や大学生を描いているの化け物だ。

バラ色の明日

連作短編集。とにかく空気と間がすさまじい。いくえみ作品の真骨頂というべき作品。中でも次の作品がとても好き。

第5話 エンジェルベイビー

双子のイチとナナの物語。その前の第4話もイチとナナの物語だけれど、第5話ではカブ、シャブちゃんといった人物が絡んできて二人の世界が変わっていく。
第5話は4章あって、それぞれ「カブ」「ナナ」「イチ」「シャブちゃん」の視点で描かれている。
とにかく作品の透明感がすごい。思春期の1ページ、その葛藤を丁寧に切り取って丁寧に描いた作品。

第7話 PIECE OF MY LOVE

ある日目が覚めたら目が青くなっていた雪好くんの物語。そのうち髪の毛も金髪になってしまうが、それには悲しい理由がある。悲しい気分になりたいときにお勧めしたい。ありがちな設定と結末なのだけれど、とにかく悲しさがすごい。いくえみ綾のすごいところはそこだと思う。物語自体がオリジナリティがすごいとかじゃなくて、ありがちなことを丁寧に特別に描くのに長けているというか。

第9話 WHO

母に先立たれ父に夜逃げされ、母の実家に引き取られた柚子(ゆうこ)となぞのおじさんの物語。6章だて。ちょっとミステリチック。
柚子は母、父を喪失した後に(父は生きているが)、思わぬ形で3度目の喪失をすることになって、そのシーンが悲しくて悲しくてしょうがない。あれ、わたし悲しいシーンが好きなのかな(気付き)。
雨に濡れてあの夏を思い出す柚子に傘を差し出す××のシーンは必涙。

プリンシパル

この作品はファンの中でも評判が悪かったりするのだけれど、わたしは大好きで何回も読み直している。

糸真は母親の4人目の夫と馴染めず、また学校でも友人関係で躓いたこともあり、実父を頼って単身来札する。そこで出会った新たな人たちとの物語。

おそろしいほど何の特技も取り柄も特徴も無い、周りの顔色をうかがったりときどき失敗する普通のはずの糸真なのに、なぜか周りには人気者の男子がおり、嫉妬されたり意地悪されたりいろいろある。連載当初からインターネッツでも「なんでこいつが幸せになるのか分からない」「自分からは何もしてない」「御都合主義」等の罵詈や雑言を浴びせられているが、それはおそらく作者の狙い通りのように思う。
というのは、作中で糸真は、自分の周りばかりが動き自分は何ひとつ動いていないことに気付くのだ。そして自ら称して「みんなの中のぼっち」を名乗る。

しかし作品を読めば分かるが、そんな糸真は常に物語の中心にいる。糸真がいなければ実は何も物語は動かなかったはずだし、既に「ただそこにいてくれている」ということがどれだけ大きいことなのかを作品後段で登場人物に告げられる(恋人ではない)。

僕ねぇ 糸真が来てくれて嬉しいよ
今日寝ながら
今までのぼくらの生活に 糸真が入ってきてなかったら
って考えたら すごいさみしかった
(ネタバレすぎなので中略)
あれ ほんとに嬉しかったんだぁ
いっつも思い出すんだぁ
糸真
ありがとう

泣く。このセリフだけでもうこの作品はなんども読み返す価値がある。
特別じゃない主人公だからこそ、人ってきっと誰かにとって誰もがそういう存在なのかなと思わされる。良作。

かの人や月


羽上家をめぐる物語。第12話まであり、語り手は毎回変わる。
羽上家は長男顕(あき)、長女ひろの、次女ほのか、それから父母祖父祖母の7人家族。そこにひろのの友だち深町とほのかの彼氏の隼人が加わって物語は進む。

この中でわたしは顕視点の物語が断然好きだ。第3話と第10から12話。
ひろの、ほのか、顕は物語を通じてそれぞれ成長していくけれど、顕が一番顕著だったのではないかなと思える。ただただクールで面倒ごとが嫌いだったはずの顕がきちんと人と向き合うようになる。とくに後輩に送ったメールは、いろいろ泣ける。

そういうわけで

特に好きな3作品を挙げてみた。「I LOVE HER」とか「POPS」とか前期作品や「カズン」などの誰が読んでもって良作が入ってないのはご愛嬌。